ここからは実際に汚れを落とす洗浄工程へと移りますが、本洗いに進む前に欠かせないのが、職人の手仕事による徹底した「前処理」です。特に汚れが蓄積しやすいのが襟と袖です。襟の部分は肌が直接触れるため、皮脂や汗による汚れが繊維の奥まで浸透している場合があります。ここに専用の洗浄剤を丁寧に塗布し、生地を傷めないよう適切な力加減でこすり洗いを施すことで、蓄積した汚れを分解していきます。さらに女性の利用者の場合はファンデーションの付着も多く見られるため、これには油性の洗浄剤を用いて汚れをじわりと浮かせ、丁寧にアプローチすることが求められます。また、日常の動作で様々な場所に触れる機会が多い袖口も、非常に汚れやすいポイントです。テーブルに触れた際に付着した油汚れや、知らず知らずのうちに分泌された皮脂に埃が吸着し、汚れとなって定着してしまいます。こうした特定の部位に固着した強固な汚れは、全体を機械で洗うだけでは十分に落としきることができません。本洗いの効果を最大限に引き出すためには、この段階で個別の汚れを除去しておく必要があるのです。こうした前処理を経て、ようやくダウン全体を洗い上げる本洗いの準備が整います。
TATRASクリーニング
今回お預かりいたしましたのは、多くのファンを魅了している「タトラス(TATRAS)」のダウンジャケットです。一目見ただけで伝わってくるのは、控えめながらもしっかりとした主張を感じさせる、静かで上品な艶感です。実際に手に取ってみると、その驚くべき柔らかさと軽さに圧倒されます。ダウンウェアにありがちな着膨れ感や重さは一切なく、空気をたっぷりと含んだ上質な羽毛が、冷気をシャットアウトしながらも羽のような着心地を提供してくれることが容易に想像できました。タトラスはイタリア・ミラノを拠点にしながらも、日本人によって設立されたブランドであることは有名ですが、実物を目の前にするとそのルーツが随所に息づいていることを実感します。欧米ブランドにありがちな極端なボリューム感ではなく、日本人の体型を美しく見せるスリムなシルエットや、細やかなディテールへのこだわりが、この一着に凝縮されているのです。伝統を重んじつつも、どこか新しさを感じさせる現代的なアプローチがあり、主張しすぎないバランスの良さは、まさに日本人の感性に寄り添ったものと言えるでしょう。このような価値ある一着をメンテナンスするにあたり、まず私たちが最初に着手したのは、何よりも丁寧な検品作業です。タトラスのダウンは非常に繊細な素材で構成されており、その美しさを維持するためには、洗浄前の現状把握が極めて重要となります。もしダウンの表面に穴や傷があったり、生地が擦れて薄くなっていたりした場合、その箇所からダメージが悪化したり、中から大切な羽毛が吹き出したりしてしまうリスクがあるからです。そのため、私たちはプロの目で一点一点、気を付けるべき箇所を徹底的に確認していきました。また、ダメージの確認と並行して、汚れの箇所についても非常に丁寧に観察を行いました。襟元や袖口といった皮脂汚れが溜まりやすい場所、あるいは予期せぬ食べこぼしなどのシミがどこにあるのかを細かく特定していきます。タトラス特有の上品な艶を損なわないためには、汚れの種類に応じた最適な処置が必要となります。ただ全体を洗うのではなく、まずはこの検品によって「この一着が今どのような状態にあるのか」を完璧に把握することが、安全で高品質なクリーニングを実現するための第一歩となるのです。この検品結果をもとに、タトラスの品格を蘇らせるための最適なアプローチを慎重に選択し、作業を進めてまいりました。
クリーニング事例概要
タトラスのダウンジャケットの裏地には、ブランドのアイデンティティを象徴する、写真のような気品溢れるロゴが配されています。このロゴは、一着のダウンが持つステータスと品格を静かに物語る素敵な意匠ですが、クリーニングにおいては非常に繊細に扱うべき箇所でもあります。洗浄時の機械的な衝撃や摩擦によって、ロゴのパーツが傷ついたり破損したりする恐れがあるため、私たちはその美しさを守るべく、洗いの強度を極めて慎重に調整いたしました。ブランドの象徴を損なうことなく、いかにして汚れだけを的確に除去するかが、プロとしての腕の見せ所となります。この繊細な洗浄を可能にしたのが、事前に行っていた徹底的な前処理です。目立つ汚れをあらかじめ手作業で丹念に落としておいたことで、本洗いの工程では過度な負荷をかける必要がなくなりました。生地を激しく揉んだり、長時間洗浄にかけたりせずとも、汚れが落ちる最適な強さで優しく洗い上げることができたのです。その結果、大切なロゴを守り抜くだけでなく、ダウン全体の生地に対する負担も最小限に抑えることができました。素材への優しさと洗浄力の両立を図ることで、最高級の仕上がりにつながります。
今回のタトラスのダウンには、首元を彩る贅沢なファーがあしらわれていました。このファーは豊かなボリュームがあり、冬の冷たい風からしっかりと身を守ってくれそうな頼もしさを感じさせます。それでありながら決して着用を妨げるような重々しさはなく、指先で触れると吸い付くような心地よさがあり、品質の高さが肌を通じて伝わってきます。しかし、こうした天然素材の毛並みは極めて繊細であり、過度な刺激を与えると本来の風合いを損なう恐れがあります。そのため、ここでもやはり、優しく洗い上げるための「前処理」が極めて重要な鍵となります。特にファーの土台となる部分は、汚れている場合があります。私たちはここへ専用の洗剤を慎重に塗布し、細部まで丁寧に汚れを浮かせておく処置を施しました。この工程を事前に行うことで、洗浄本番では毛一本一本に負担をかけず、できる限り汚れを落とすことが可能になります。洗浄後の乾燥工程についても、一気に熱をかけると毛質が硬化したり縮んだりするリスクがあるため、時間をかけてじっくりと乾燥させていきます。仕上げには、熟練の職人がブラシで丁寧に毛並みを整えることで、もともとの優美なボリュームを最大限に復元いたしました。
タトラス特有の繊細な生地やダウンの質を守るための「洗い」についてお伝えしてきましたが、その後の乾燥と仕上げについても、ダウンの寿命と美しさを左右する極めて重要な工程です。洗浄後のダウンは、羽毛を一本一本空気で揉みほぐすように、適切な温度と回転速度を厳格に管理して丁寧に乾燥させます。これにより、タトラス特有の軽やかさとボリュームが復元されます。乾燥後は、熟練の職人が手作業で一着ずつ細部まで形を整え、美しいシルエットを再現する仕上げを行いました。その際、アイロンを生地からわずかに浮かせながらスチームを当てることで、素材に直接的な負担や熱ダメージを与えないよう、細心の注意を払っています。こうした丁寧な工程の積み重ねが、タトラス本来の風合いを維持することに繋がります。今回は通常のクリーニングを実施いたしましたが、当店では標準的なケアだけでなく、頑固な汚れを落とす「特殊染み抜き」や、外部の刺激から生地を守る「撥水加工」など、多彩なオプションを取り揃えております。無料カウンセリングも実施しておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。専門知識を持ったスタッフが、お客様の不安に寄り添い対応させていただきます。













