カナダグースの全体染めについて
「ダウンだったらなんでも染められる?」、「やってみたいけれどどんなふうに染まるのかな」、と不安に思われる方も多いのではないでしょうか。弊社の公式SNSやホームページでも積極的に作業前後の様子について発信しておりますのでぜひご覧ください。
本日はカナダグースダウンの染色(どんなものでも染まるのか・どれくらい染まるのか)について解説していきたいと思います。
お手元のカナダグースダウンに使用されている生地やパーツの素材と見比べながらぜひご覧ください。
1.ダウンの種類
ダウンといっても素材は色々ありますので、当然染まり具合にも差が出ます。また、衣類本体ではなく付属品についても染まり方に違いが出てきます。
主に弊社で扱うダウンに使用されている生地は以下の3つです。
- ナイロン(ダウン全体で多い)
- C/T(カナダグースに多い)
- ウール(モンクレールやタトラスに多い)
そしてそれぞれにワッペンやファスナーなどの金具、タグが付いています。これらのおもな素材としてはレザー・ポリエステル・金属が挙げられます。
2.それぞれのダウンの特徴
染料に入れ始めて早い段階で色が変わってくるのは「ナイロン」です。生地が薄手なこともありますが、非常に色が浸透しやすい繊維です。時間をかけてしっかり漬け込みながら染色をおこなう事でしっかりと満遍なく染色することが出来ます。早い段階で漬け込みを終えれば当然色の入り具合は浅くなります。
続いて「C/T」生地です。これはポリエステルと綿の混紡繊維のことなのですが、ポリエステルはなかなか染料が浸透しにくい構造をした繊維。染色を行う際には染色促進剤を使用しながら、作業をおこなっていきます。このほか繊維によってお酢や塩を使ったりすることもあります。これによって繊維にしっかり色を定着させていくことが出来ます。
「ウール」も染色しやすい繊維の一つです。どんどん色が変化していきます。優しい色味からビビットな色味まできれいな発色が特徴です。ウールは冬物衣類に欠かせない素材の一つでその染色性の高さがいかんなく発揮されるのがセーターやカーディガンです。
その例として、人気衣料販売店ユニクロさんではウールセーターのカラー展開が非常に豊富ですよね。絶妙なニュアンスの違いまできれいに出るのが魅力です。
それぞれの繊維によって使うものも異なるので、1つ1つ手作業で丁寧に染色を行っていきます。
3.染まり具合の個体差
ダウンの染色は、もともとのダウンの色味によっても仕上りが大きく左右されます。
グリーン系の色味からブラックに染め変える、というときは若干緑がかったブラックになります。逆にベージュ系のダウンにブラウンで染色を行うと、同系色の為、きれいに色が入り美しいブラウンに染まります。
これは人の髪を染めるのと似ていますね。黒い髪をブラウンに染め変えようとすると、若干色が入りにくく暗めに仕上がるかと思います。
ブリーチをして色が薄くなっている髪であれば、ブラウンもきっちり色が入りますよね。
この染まり具合(色の定着の具合)は、染める前や染めている最中に「正確に予測すること」は困難です。
その理由はダウンの個体差と、人の色の感じ方の違いにあります。
ダウンは着用中に色あせたり変色したり、シミが出来たりしてしまいます。こういった1つ1つの小さな違いが染色では大きな差となって出てくることがあります。
着用頻度や環境は人によってさまざま。同じモデルのダウンであっても1つとして同じ状態のダウンはないのです。
そのため我々の経験の中である程度の可能性(先ほどのような「緑がかったブラックになる可能性がある」など)のご案内までが限界となってしまうのです。
併せて、色の感じ方・見え方も個人差があります。感覚的な部分、そして場所によっても若干差が出てしまいます。
太陽にあててみるのと蛍光灯の下で見るのとでもだいぶ印象は変わります。こういった差は言葉では表現するのが難しいだけでなく、それが正しいとは一概には言えないのです。
4.色が入らない部分について
4-1 色が入りにくい部分はどこ?

ダウン一着でも、染まる部分・染まらない部分があります。
こちらの部品などを拡大した図をご覧ください。
ダウン本体はきれいに色が入っていますが、ステッチ部分やテープ(リボン)部分などは本体と比較して明るい色に染まっています。
これは、この素材がダウン本体の素材と別なものでできている為です。
縫い糸は主にポリエステルで出来ているので、先ほど紹介させていただいた通り色が浸透しにくいのです。そのため、染色を行っても下の画像のように縫い糸だけもともとの色のままという事もあります。
また、ボタンもきれいに染まるものとそうでないものがあります。この二種類のボタンを見比べていただくとわかりやすいのではないでしょうか。
染まらなくても違和感のないデザインもありますが、明るい色のボタンだと若干浮いて見えてしまう可能性があります。
4-2 染めてほしくない部分があるときは?
このように染まるもの・染まらないものについてご案内してきましたが、逆に「染まってほしくないもの」もあるのではないでしょうか。
弊社ではロゴワッペンなど一部のパーツについては一度取り外したうえで染色をおこなう事が可能です。
特にカナダグースダウンをお持ちの方で懸念されるのが腕や背面のワッペンです。ダウン丸ごと漬け込んでの染色の為、当然カナダグースのロゴワッペンも色が変わってしまいます。
赤と白が印象的なカナダグースのワッペンも、画像のように若干黒っぽい状態に仕上がります。こういった事態を防ぐため、染色のご注文をいただく時点で、取り外しの有無をご選択いただいております。
こちらはオプションサービスとなり、ご注文の際に複数個所の選択が可能です。

4-3 ワッペンを取り外す場合の作業工程
カナダグースダウンのワッペンを取り外して染色する場合の作業工程としては
①パーツを外す
↓
②洗う(ダウン本体についた汚れを落とし、界面活性剤の作用で染料を浸透しやすくします。)
↓
③染色
↓
④洗う(余分な染料を落とします)
↓
⑤乾燥(低温で長時間乾燥し、乾燥ムラやダウンの偏りを防ぎます)
↓
⑥パーツを付ける(元の位置に合わせて縫合します)
↓
⑦アイロン・仕上げ(高温の染料で漬け込むため若干生地が収縮しシワができやすくなります。)
という流れになります。
4-4 作業工程に関するさらに詳しい解説
②洗う
弊社に到着してすぐのダウンは、汚れなどが付着しています。そのまま染色をおこなってしまうと色ムラなどのトラブルの原因となる可能性があるので、1度洗濯します。
この洗濯はもう1つ重要な役割を持っています。それが染料の浸透を促す、というものです。衣類は水などの液体が付着したとき、生地に浸透するまで少し時間がかかりますよね。これは「界面張力」が働いているためです。界面張力というのは水の分子同士が引き合う力(性質)のことです。「表面張力」といえば耳馴染みがあるかもしれませんね。「界面張力」も「表面張力」も意味としては同じです。
この界面張力が働いている状態というのは、生地に液体(ここでいう染料)が浸透しないという事なのです。
それでは染色が出来ないので、界面張力を弱らせる必要があります。この時にカギとなるのが「界面活性剤」です。この界面活性剤というのは界面張力の性質を変化させるもので、簡単に言うと界面張力を弱らせる効果があります。界面活性剤、いかにも溶剤らしい名称で特殊なものを想像してしまいますが、これは石鹸をはじめ、我々が使っている洗剤の主成分となるものです。
洗剤はただ「洗う」だけでなく「染色」にも大きな影響を与えています。
③染色
洗いの工程を経て染料が浸透しやすい状態に整えたら、いざ染色です。
ダウンの重さに合わせて染料の適切な量を割り出し、漬け込むための染料を用意します。熱を加えることで、染料に含まれている分子の運動量が上がります。それによって染料の浸透が促され、染まりやすくなります。
また、染色の際は色を「定着」させることも重要です。そのため、染料と併せて「塩」や「お酢」を入れます。これは染料の分子と繊維を化学結合させることで染料を固定(定着)するという目的(色止めの役割)があります。染料で染めただけでは染色後の浸透が甘く、洗ったりする中で徐々に色落ちが進んでしまうのです。
大きな鍋に入れて染色を行うのですが、染料の中に入れただけでは均等な染色はできません。ダウンは水に浮いてしまうので、放っておいてしまうと染まりムラの原因になります。満遍なく染まるよう、常にダウンを動かしている必要があります。そのため、全体染めは専属で1人のスタッフが付きっきりで作業をおこないます。
④洗う
漬け込みが終わって取り出したら、余分な染料を洗い落としていきます。この時、必要な染料は染色の際の色止めでダウンにとどまっているので、問題ありません。
⑤乾燥
染色直後は余分な染料が付着したままの状態、洗った直後は水を吸って色が変わって(濃く見えて)いるので正確な色味を把握することが出来ません。
乾燥の工程を経て初めて、染色後のダウンの状態・染色の具合がしっかり確認できます。染まりムラは無いか確認し、仕上げに取り掛かります。
⑦アイロン・仕上げ
合成繊維は特にですが、熱による作用を受けると形状が変化します。熱収縮と呼ぼれるものです。文字の通り、熱の影響を受け縮んでしまいます。熱を下げようと急激に冷やしてしまうとますます収縮を加速させてしまうので取り扱いには注意が必要です。
こうなるとダウンがシワになってしまいます。高温が加わることによって生じるシワは頑固でなかなか伸びにくいのです。全体染めによってできたシワをきちんと整えるため、複数人でダウンを伸ばしながら高温の蒸気アイロンで仕上げを行っていきます。
4-5 染色希望の場合の注意事項
ダウンの色味によってはご希望の色での染色が行えない場合がございます。こういった場合にはお客様へ個別にご相談させていただいております。何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。
これまでの染色の実績について当社ホームページ内でも絶賛公開中でございますので、染色後のお色味にお悩みの方はぜひ参考にご覧ください。
5.まとめ

本日は、カナダグースダウンの染色(全体染め)について当社に実際にご依頼いただいた内容も踏まえながらご説明させていただきました。
カナダグースダウン特有の白化や全体的な色褪せなどにも対応できる手段として、多くのお客様にご利用いただいております。
当社のSNSやホームページをきっかけにダウンの染色を知って下さった方、興味・依頼してみようかなという気持ちを持っていただいた方のお役にたてば幸いです。
FIVE STAR HIRAISHIYAでは、カナダグースをはじめとする高級ブランドダウンのクリーニング取り扱い実績が50万着以上あります。それぞれの素材や汚れの特性を踏まえながら最適な方法でクリーニング・染み抜きを行っております。
注文方法や現在のダウンについてご不安な部分、クリーニングの内容について確認したいことがある場合は無料カウンセリングや電話注文も承っておりますので、下記リンクよりお気軽にお問い合わせくださいませ。
SNSやホームページにてクリーニング中の様子やクリーニングと併せてオススメしているオプションの紹介なども行っておりますので、ぜひ参考にご覧ください。
また、多くのお客様にネット注文をご利用いただいております。ご自宅でスマホやパソコンから必要な情報をご入力いただきますと、注文完了となります。集荷日時をご指定いただければ、ヤマト運輸さんが、梱包用の段ボールを持参してお客様のご自宅まで引き取りに伺います。当社到着後、作業中の進捗状況等はメールにて都度ご案内させていただいております。また、仕上がり後のダウンもヤマト運輸さんより配送されます。ご自宅で注文から受け取りまでの一連の作業が完結できるシステムとなっております。
注文後の流れについて、わかりやすく説明させていただいた動画がこちらになります。是非合わせてご覧ください。
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